スキルアップ2
先月の末に上京し木造の構造のセミナーを受講した。
目的は、構造のセミナーを受講するのは当然であるが、セミナー終了後、講師の先生方との懇親会に出席し日本の木造の構造のトップの先生方に挨拶をし、あわよくば疑問に思っていることを質問するのが目的であった。
幸いにも挨拶ができ質問をしアドバイスを頂き東京まで行った甲斐があった。
講師の大橋好光先生は、現在東京都市大学工学部建築学科教授であるが、以前熊本県立大で助教授をされていたので個人的には親近感を持っていた。
平成7年1月に起きた阪神大震災から5年後、平成12年に構造規定が大改正されたが、建築技術という雑誌の平成12年10月号で大橋先生の名前を知った。熊本県立大学助教授としてあったので熊本にこんな先生が居られるのかと驚いたものである。
(公財)日本住宅木材技術センターの「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」と日本建築防災協会の「木造住宅の耐震診断と補強方法」のどちらも委員長は東京大学名誉教授 坂本功先生だが、委員の中では大橋先生の名前がトップに書かれている。
熊本地震後、今回で大橋先生の講義を聞くのは4回目となった。
熊本から来ましたと挨拶をすると、熊本県立大で助教授をされていた当時の県知事の方針などの裏話も聞かせて頂いた。
大橋好光先生
山辺豊彦先生は、東京で構造設計事務所をされており構造に関する書籍を多数出版されている。
大工塾というものも主宰されている。
熊本では和水町三加和小中学校の構造設計を担当された。
山辺豊彦先生
お二人ともとても気さくな先生で本の表紙の裏にお二人のサインも頂いた。
(本自体は荷物になるので表紙だけを持参した。笑)
熊本地震から約2年。余震もおさまり平常を取り戻しているが、被災地に行けば無残な姿がまだかなり残っている。
23年前に起こった平成7年1月の阪神大震災は驚愕だった。
それから5年後の平成12年、建築基準法の構造規定が大改正され、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基ずく住宅性能表示制度とう言うものが新たに加わり、耐震等級と言う基準ができた。
今から17年前、大地震が起きても自分が設計した建物は絶対に倒壊させないと言う信念を持った。
(公財)日本住宅木材技術センターが出版していた当時の構造計算の本は薄ぺらく内容も充実していなかった。
本のタイトルも3階建て木造住宅の構造設計と防火設計の手引きと言うものであった。
平成13年12月に(公財)日本住宅木材技術センターから「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」と言うタイトルで木造の構造計算の本が出版された。
それまでの薄ぺらい本に比べ内容がかなり充実したものだった。
特に水平構面の定義が示され、2階床水平構面の許容せん断耐力と屋根水平構面のせん断耐力、火打梁水平構面のせん断耐力の計算方法も掲載された。
そして平成20年12月に「木造軸組工法住宅の許容応力度設計 2008年版」が出版された。
内容は更に詳しくなり梁の蟻掛けによる断面欠損の低減率も詳しく示された。
そして平成29年3月に最新版「木造軸組工法住宅の許容応力度設計 2017年版」が出版され更に充実したものとなった。
この本の はじめに を一部抜粋する。
「木造軸組工法住宅の多くは建築基準法第6条第4号に該当するいわゆる4号建築物です。
それらは、法令的には仕様規定である壁量計算で設計することが可能です。しかし、過去の地震災害等を振り返ると、しっかりとした許容応力度計算等による構造計算をおこなった建築物の方が優れた性能を発揮していることが分かります。
・・・仕様規定の壁量計算に依存してきた設計者にとっては、木造建築物の許容応力度計算は、ハードルの高いものです。
そのため、多くの質問が寄せられました。それらには真摯にお答えを返してきましたが、内容が高度過ぎたのではないかといった反省もさせられました。
(公財)日本住宅木材技術センターでは改訂委員会を作り、内容を吟味し、一定の成果を得て、その結果を
「木造軸組工法住宅の許容応力度設計 2017年版」として取りまとめることができ、発刊することとなりました。
本書によって、木造住宅の高度な構造設計、構造計算が適切に行われ、安全で質の高い木造住宅が増加することを期待します。
木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会 委員長 坂本功 」抜粋終わり。と書かれている。
この本なしでは許容応力度計算はマスターできない。ありがたいものである。
また許容応力度計算なしでは本当に安全な建物は設計できないのも事実である。
熊本地震を経験するまでは建築基準法上大きな地震が起きても倒壊させないという基準を目標にしてきた。
平成12年の大改正後の基準を正しく守っていれば倒壊はしないということは経験できたが、地震経験後は倒壊させないから、いかに揺らさないかと目標が変わった。
揺らさないためにはどうするのか、行くつく先は構造計算を行い詳細に設計することと再認識した。
現在木造住宅の9割は構造計算されずに建っているのが現状である。
構造計算を行えば安全な建物ができることは分かっているのだが、構造計算ができる設計者が1割もいないのでそこまで建築基準法のレベルを上げられないのが現状であると思われる。
構造の検討は通常は壁量計算と4分割法で鉛直構面の検討だけで済まされているのがほとんどである。
確認申請は通常4号特例を使うが、特例を使えば行政や検査機関の構造の審査はされないのが現状である。
住宅性能表示制度を受ければ構造の審査がされる。鉛直構面に加え水平構面(床倍率)の検討はされるが、構造計算をしなければ簡易的な計算法で済まされている。
簡易的な計算法では平面プラン上の制約がある。この制約が梁上耐力壁を増やしてしまうところがネックと思われる。
梁上耐力壁がある場合、1階の柱に直接力が流れないのでどうしても横に力が流れてしまう。
揺れを止めるために入れたのに下に力が流れない分、横に力が流れてしまい揺れを止める力が弱いのである。
梁上に耐力壁があれば、その梁には長期荷重の他に短期荷重が加わりプランによっては、柱ほぞの断面欠損15%、両サイドに蟻掛けの梁が掛かれば25%×2=50%、合計で65%の断面欠損(正確には梁の断面係数の65%を低減)になるのである。
地震の時はその梁は35%の断面(正確には梁の断面係数の35%)で屋根や床の長期荷重と地震の時の短期荷重を支えなければならないのである。
プレカット工場では長期荷重による梁の大きさは検討してくれるが、地震や台風の時の短期荷重を加えた検討はしてくれないところが多いのが現状である。
構造計算を行い鉛直構面、水平構面、偏心率、層間変形角、梁上耐力壁等の検討を行い
建築基準法の目的の倒壊させないのは当然であるが、これからはいかに揺れない安全な建物を設計できるかであると思う。
せっかく上京したので東京スカイツリーを見学して帰った。
目的は、構造のセミナーを受講するのは当然であるが、セミナー終了後、講師の先生方との懇親会に出席し日本の木造の構造のトップの先生方に挨拶をし、あわよくば疑問に思っていることを質問するのが目的であった。
幸いにも挨拶ができ質問をしアドバイスを頂き東京まで行った甲斐があった。
講師の大橋好光先生は、現在東京都市大学工学部建築学科教授であるが、以前熊本県立大で助教授をされていたので個人的には親近感を持っていた。
平成7年1月に起きた阪神大震災から5年後、平成12年に構造規定が大改正されたが、建築技術という雑誌の平成12年10月号で大橋先生の名前を知った。熊本県立大学助教授としてあったので熊本にこんな先生が居られるのかと驚いたものである。
(公財)日本住宅木材技術センターの「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」と日本建築防災協会の「木造住宅の耐震診断と補強方法」のどちらも委員長は東京大学名誉教授 坂本功先生だが、委員の中では大橋先生の名前がトップに書かれている。
熊本地震後、今回で大橋先生の講義を聞くのは4回目となった。
熊本から来ましたと挨拶をすると、熊本県立大で助教授をされていた当時の県知事の方針などの裏話も聞かせて頂いた。
大橋好光先生
山辺豊彦先生は、東京で構造設計事務所をされており構造に関する書籍を多数出版されている。
大工塾というものも主宰されている。
熊本では和水町三加和小中学校の構造設計を担当された。
山辺豊彦先生
お二人ともとても気さくな先生で本の表紙の裏にお二人のサインも頂いた。
(本自体は荷物になるので表紙だけを持参した。笑)
熊本地震から約2年。余震もおさまり平常を取り戻しているが、被災地に行けば無残な姿がまだかなり残っている。
23年前に起こった平成7年1月の阪神大震災は驚愕だった。
それから5年後の平成12年、建築基準法の構造規定が大改正され、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基ずく住宅性能表示制度とう言うものが新たに加わり、耐震等級と言う基準ができた。
今から17年前、大地震が起きても自分が設計した建物は絶対に倒壊させないと言う信念を持った。
(公財)日本住宅木材技術センターが出版していた当時の構造計算の本は薄ぺらく内容も充実していなかった。
本のタイトルも3階建て木造住宅の構造設計と防火設計の手引きと言うものであった。
平成13年12月に(公財)日本住宅木材技術センターから「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」と言うタイトルで木造の構造計算の本が出版された。
それまでの薄ぺらい本に比べ内容がかなり充実したものだった。
特に水平構面の定義が示され、2階床水平構面の許容せん断耐力と屋根水平構面のせん断耐力、火打梁水平構面のせん断耐力の計算方法も掲載された。
そして平成20年12月に「木造軸組工法住宅の許容応力度設計 2008年版」が出版された。
内容は更に詳しくなり梁の蟻掛けによる断面欠損の低減率も詳しく示された。
そして平成29年3月に最新版「木造軸組工法住宅の許容応力度設計 2017年版」が出版され更に充実したものとなった。
この本の はじめに を一部抜粋する。
「木造軸組工法住宅の多くは建築基準法第6条第4号に該当するいわゆる4号建築物です。
それらは、法令的には仕様規定である壁量計算で設計することが可能です。しかし、過去の地震災害等を振り返ると、しっかりとした許容応力度計算等による構造計算をおこなった建築物の方が優れた性能を発揮していることが分かります。
・・・仕様規定の壁量計算に依存してきた設計者にとっては、木造建築物の許容応力度計算は、ハードルの高いものです。
そのため、多くの質問が寄せられました。それらには真摯にお答えを返してきましたが、内容が高度過ぎたのではないかといった反省もさせられました。
(公財)日本住宅木材技術センターでは改訂委員会を作り、内容を吟味し、一定の成果を得て、その結果を
「木造軸組工法住宅の許容応力度設計 2017年版」として取りまとめることができ、発刊することとなりました。
本書によって、木造住宅の高度な構造設計、構造計算が適切に行われ、安全で質の高い木造住宅が増加することを期待します。
木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会 委員長 坂本功 」抜粋終わり。と書かれている。
この本なしでは許容応力度計算はマスターできない。ありがたいものである。
また許容応力度計算なしでは本当に安全な建物は設計できないのも事実である。
熊本地震を経験するまでは建築基準法上大きな地震が起きても倒壊させないという基準を目標にしてきた。
平成12年の大改正後の基準を正しく守っていれば倒壊はしないということは経験できたが、地震経験後は倒壊させないから、いかに揺らさないかと目標が変わった。
揺らさないためにはどうするのか、行くつく先は構造計算を行い詳細に設計することと再認識した。
現在木造住宅の9割は構造計算されずに建っているのが現状である。
構造計算を行えば安全な建物ができることは分かっているのだが、構造計算ができる設計者が1割もいないのでそこまで建築基準法のレベルを上げられないのが現状であると思われる。
構造の検討は通常は壁量計算と4分割法で鉛直構面の検討だけで済まされているのがほとんどである。
確認申請は通常4号特例を使うが、特例を使えば行政や検査機関の構造の審査はされないのが現状である。
住宅性能表示制度を受ければ構造の審査がされる。鉛直構面に加え水平構面(床倍率)の検討はされるが、構造計算をしなければ簡易的な計算法で済まされている。
簡易的な計算法では平面プラン上の制約がある。この制約が梁上耐力壁を増やしてしまうところがネックと思われる。
梁上耐力壁がある場合、1階の柱に直接力が流れないのでどうしても横に力が流れてしまう。
揺れを止めるために入れたのに下に力が流れない分、横に力が流れてしまい揺れを止める力が弱いのである。
梁上に耐力壁があれば、その梁には長期荷重の他に短期荷重が加わりプランによっては、柱ほぞの断面欠損15%、両サイドに蟻掛けの梁が掛かれば25%×2=50%、合計で65%の断面欠損(正確には梁の断面係数の65%を低減)になるのである。
地震の時はその梁は35%の断面(正確には梁の断面係数の35%)で屋根や床の長期荷重と地震の時の短期荷重を支えなければならないのである。
プレカット工場では長期荷重による梁の大きさは検討してくれるが、地震や台風の時の短期荷重を加えた検討はしてくれないところが多いのが現状である。
構造計算を行い鉛直構面、水平構面、偏心率、層間変形角、梁上耐力壁等の検討を行い
建築基準法の目的の倒壊させないのは当然であるが、これからはいかに揺れない安全な建物を設計できるかであると思う。
せっかく上京したので東京スカイツリーを見学して帰った。
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