断熱と耐震の話4 建築基準法改正

令和6年今年の9月に国土交通省 住宅局 建築指導課から建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料が国土交通省のホームページに公表された。(随時更新されている)
国土交通省→ 政策情報・分野別一覧→ 住宅・建築→ 建築物省エネ法の概要(説明会資料)
https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf

法改正は来年4月1日からであるが、改正まで半年を切り国土交通省補助事業で講習会が10月から始まった。建築キャドソフトメーカーや構造計算ソフトメーカーなどの法改正に向けたセミナー等も開催されるようになり、時間が許す限りセミナーを受講し、いよいよかと言う雰囲気にはなって来た。
改正は大きく分けて3つある。
1.すべての新築物件で省エネ基準適合を義務化
2.木造戸建て住宅の建築確認手続き等を見直し
3.木造戸建て住宅の壁量計算や柱の小径の算定見直し等である

1.の省エネ基準に関しては、熊本県の場合5~7地域の外皮平均熱貫流率を等級4 UA値0.87を切ればよく、一次エネルギ消費量等級4 BEIが1.0を切ればよいので厳しい基準ではないが、2030年にはZEH・ZEB基準に引き上げられるのでそれを見越して設計しておかなければならない。

2.の建築確認申請の手続きの見直しがされるが、現在4号特例を使い確認申請を行えば、階数2階以下で延べ面積500㎡以下の木造建築物は、建築士が設計・工事監理を行った場合には構造関係規定等の審査が省略されている。

今回の改正により平屋かつ延べ面積200㎡以下の建築物以外の建築物は、構造によらず、構造関係規定等の審査が必要になる。審査すると言うことは、当然構造図(基礎伏図や各階床伏図、小屋伏図等)の提出が義務化されると思いきや、国土交通省の説明資料の中に、建築基準法施行規則第1条の3 提出図書の合理化とある

旧4号から新2号に移る建築物のうち、仕様規定のみで構造安全性を確認する計画については、必要事項を仕様表 等に記載することで、基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図及び軸組図の添付を省略するなど、添付図書の合理化を図る。と書いてある。

仕様表を提出すれば構造図は提出しなくてよいわけである。(来年4月から始まってみないと実際どうなるのかわからないが)

確認申請4号特例(構造関係規定等審査省略)は廃止されるが、必要事項を仕様書に記載すれば各階床伏図等の構造図面は提出しなくとよいとされている。なので構造図の審査はされないわけで実質4号特例は残ったことになる。

何故そうなったのか、小規模な木造建築物の確認申請に構造図を添付しても行政機関や確認審査機関に木造の構造を理解して構造図を審査できる人の絶対数が足りない言うことが1番の理由ではなかろうか。

2番目に日本経済が復活するためには住宅がどんどん建設されなければならないのであるが(住宅が建てば消費も伸びる)確認申請で構造の審査に時間がかかれば着工が遅れたり着工数が減る可能性がある。住宅の着工数が増えなければ日本経済は落ち込んだままでいつまで経っても景気は良くならないと言うことが考えられ、4号特例は実質残るのではなかろうか。

3.の壁量計算や柱の小径の算定見直しに関しては、壁量の判定や四分割法判定や柱頭柱脚金物判定の図面は提出しなければならないようである。

必要壁量が今回改正され、日本住宅木材技術センターの壁量等の基準に対応した表計算ツールを使用すると便利で必要壁量が改正前よりも正確に出せるようであるが、残念なのは鉛直構面の検討(壁量を計算すること)は良くなったが、耐力壁の量だけ充実させても本当に安全な建物は設計できない。

鉛直構面の検討の改正はされるがそれに伴って水平構面の検討を追加改正しなければ、地震や台風などの横からの力に対して鉛直構面(耐力壁等)の力を100%発揮できないわけで。鉛直構面(耐力壁等)を支えているのは水平構面(床面や桁面、屋根面)であり地震や台風等で水平構面にせん断力がかかった場合、そのせん断力に耐えられる水平構面であるかは構造計算をして安全であるかを確認しなければ本当に安全な建物であるかはわからないわけである。

水平構面.jpg

前回の構造規定の大改正が平成12年、2000年だったので25年振りとなる改正である。改正の内容は構造計算(許容応力度計算)を行い安全を確認しているる設計者からすれば何の改正もなく今までと変わらない設計となるわけである。

阪神淡路大震災から5年後基準法が大改正されてから25年。その間に東日本大震災や熊本地震や能登半島地震があり小規模木造建築物の構造設計のレベルが底上げされるものと思っていたが、そこまでレベルが上げられなかったのは残念である。

本当に安全な建物がこの世生まれることを願ってます。


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